あるピアノ弾きの子供の話。

　現代日本。
　あるところに、小さい頃からピアノを弾いている男の子がいました。
　その子はある日、自分の母親にこう聞きました。

『どうしてベートーヴェンはこんなに重くて暗い曲ばかり作っていたの？』

　母親はこう答えました。

『それは、あなたがベートーヴェンの生まれた国に行かないと分からないことですよ』

　そして、こうも言いました。

『もしもあなたが本当にその国に行ってみたいのなら、これから一年間、私は更に朝早くから働いてあなたを連れていくお金を貯めます。そしてこれから一年間、あなたは自分で朝ご飯を作り、学校へ行かなくてはいけません。あなたが一年間それをやり遂げられたら、あなたをベートーヴェンの生まれた国へ連れて行ってあげましょう。それでも行きたいと思いますか？』

　六歳の息子は、こう答えました。

『それでも、行ってみたいです』




　それから一年後。
　六歳だった男の子は自分に課せられた使命を見事にやり遂げました。
　そして七歳のある日、母親と共にドイツへと訪れた少年は、こう言いました。


『なんて重苦しい空なんだろう。こんな空の下でずっと暮らしていたのなら、確かにあんな曲たちが出来るんだろうね』




　＊：＊：＊




母の友人と、その息子さんのお話です。
なんてーかもう、色々次元が違う。